緑茶中には色々な成分(カフェイン、カテキン、ビタミンなど)が含まれており、近年最も注目を浴びているのがカテキンである。一方、緑茶のおいしさ、すなわち品質と相関があると言われている成分は、テアニンである。テアニンは緑茶中に含まれるアミノ酸の中で最も含量が高く、旨味物質として知られているグルタミン酸と化学構造が極めて類似している。

 お茶を飲んだときのホッとした感じは、緑茶中に含まれ、中枢神経系に影響するといわれるカフェインの作用だけでは説明がつかない。そこで、カフェインとは異なる作用をもつ成分が緑茶中にあると考え、その可能性をテアニンにもとめ、脳・神経機能に及ぼす影響を調べた。


 実験動物としてラットを用い、まず初めに、テアニンが腸管から吸収されることを明らかにし、次いで、血液中のテアニンが血液・脳関門を通過して、脳内に取り込まれることを証明した。そこで、脳内に入ったテアニンは、脳機能に関わる神経伝達物質に対してどの様に影響するかを、脳微小透析法を用いて検討した。これは、生きた状態での脳内物質の変動を測定することが出来る方法である。その結果、脳のある部位ではテアニン投与によりドーパミンの放出量の増加することがわかった。その他、セロトニンなども変動することが分かった。これらの脳内物質の代謝変動が、ラットの行動などに、どの程度影響するかは定かではないが、次に、人に飲ませた場合の影響を調べてみた。

 被験者に50mgのテアニン錠を飲んでもらい、自律神経系の活性を測定した。その結果、飲んでから40分後ぐらいまで、副交感神経系の活性度の増していることが分かった。副交感神経系とは、我々が、気分ゆったりと食事をするような状態の時に主に働く神経系である。すなわち、リラックス状態を引き出しているように思われる。そこで、リラックスしているときに観察されるというα波(脳波)を測定した。その結果、テアニンを摂取してから40~50分すると、顕著にα波の出現の増加することが観察された。なぜ、α波が出現するのかとか、その機構などは明確ではないが、少なくとも、テアニンを飲むとリラクゼーションが得られるようだ。


 仕事の合間やストレスを感じたときに飲む緑茶は、その香りや味といった五感への影響と同時に、テアニンという成分の作用でリラックスを生み出している。その際、おいしい緑茶(上等な緑茶はテアニン含量が多い)を飲むほうが、心を和ませるリラックス効果が大きいと思われる。

 

(よこごし ひでひこ)月刊「茶」2000年8月号より



Copyright(C)2018 MARUMIYATEA All Rights Reserved